かくして
海は始まった。
01
太陽の光が燦燦と降り注ぐ昼下がり。
ミナモシティにほど近い浜辺にアオギリは立っていた。町の喧騒ははるか遠く、また平日の昼間ということもあり、その場にアオギリ以外の姿はない。空を飛ぶキャモメやぺリッパーの声、寄せては返す波の音だけが、アオギリの耳に届いていた。
(どこにするべきか)
眼前に広がる海を眺めながら、アオギリは思案する。――アクア団の拠点を、どこに構えるべきか。
アクア団を結成すると決めたはいいものの、その活動拠点をどこにするかをアオギリは決めかねていた。表の顔は海の自然保護団体として活動するつもりである。であれば、拠点は活動の中心となる海に近いところがいいだろう。
しかし、海ともなれば夏は観光客で溢れかえる。当然、人が多ければ多いほど、アクア団として隠密な活動はできなくなる。ならば人の少ない田舎町の海に拠点を構えようとも考えたが、田舎すぎると人が少なくなりすぎる。団体行動が多くなるアクア団の活動には不向きだろう。人が少ないが故に、人の目につきやすくなる。
では一体どこにするのか。また、海の近くに拠点を作るとして、まさか分かりやすく建物を建てるわけにもいかない。どこかに隠す必要がある。
海の近くで、かつアクア団の建物を隠してくれるような場所。人が多すぎず少なすぎず、表の顔である自然保護団体の拠点のひとつとしてふさわしい場所。
そんなものがすぐに見つかるはずもなく、悩みに悩んで、アオギリはここにいた。『陸地の最果て、海の始まり』と謳われる町――ミナモシティ。
アクア団の拠点を置くとするならば、これほどふさわしい場所はない。
(いっそ、海の中に入口を作ってしまおうか……)
そうすれば拠点自体は人目につかなくなる。カイオーガを探すために海洋調査を行う際も、海の中であれば行動がスムーズだ。拠点から出るだけで、そこはもう海の中なのだから。拠点の海底に陸地へと繋がる地下通路を作ることができれば、拠点に入る際に衣服がずぶ濡れになることも避けられる。一体どれだけの費用と時間がかかるのかはこれから計算しなければならないが、人目を避け隠密に活動しようとするなら、多少の不便は目を瞑るべきだ。
となれば、次に探すべきは洞窟である。
さすがに一から岩場を掘り洞窟を作り出すのは骨が折れる。観光客が訪れないミナモシティの沖合に、今のアオギリでも用意できる程度の潜水艇で入ることのできる深さ、かつ活動拠点にできるだけの広さのある海中洞窟。拡張工事が必要になった際に、工事に耐えうるだけの強度も必要だ。それら全てを満たす洞窟を、アオギリはこれから探さねばならない。最悪の場合は、本当に一から洞窟を作ることになるだろう。たかが拠点、されど拠点である。
(目的のためとはいえ、気が遠くなる話だな)
煮詰まっていた思考も海風に冷やされ、ようやくまとまってきた。そろそろ体も冷えてきたし、計画を立てるためにも自室に戻ろうとアオギリが踵を返そうとした、そのときだった。
「よお! 昼間っからこんなとこで何してんだ?」
背後からの声に勢いよく振り向きそうになる己の体を叱咤して、アオギリはつとめてゆっくりと背後を振り返った。――気付けなかった、一体いつの間に。
「……誰です?」
「ん? ……誰でもいいじゃねえか、ただの酔っ払いよ」
そう言って酒瓶を片手に笑う目の前の男は、この場にそぐわぬ赤い髪をしていた。