一番星は
静かに眠る

04

 メイが代行者として、緊急会議の手配やイワン派への牽制を完遂し、超管局の秩序が保たれたことを確認した頃には、もう正午を過ぎていた。メイの予想が正しければ、テスラが眠りについてから、既に数時間が経っていることになる。……あの後、彼がきちんと眠っていてくれていればの話だが。
 仕事が一区切りついたタイミングを見計らい、彼女は再び、局長室の前に戻ってきた。ノックはしない。外部に悟られることがないよう、いつものように彼女は局長室の中へと足を踏み入れた。
 後ろ手に扉を閉め、メイは制服の内ポケットから電子キーを取り出す。それは、局長室に併設されている、プライベートルームの鍵。テスラの身に何かがあった場合にと、彼自身から手渡されたものだった。
 彼女は電子キーを端末にかざす。セキュリティの解除音は微かとはいえ、やはり誰も居ない局長室には響いてしまう。
 それでも彼女はゆっくりと扉を開け、できる限り音を立てないよう中に入った。
 テスラは、プライベートルームに備え付けられているベッドの上で、深く眠っているようだった。額にはうっすらと、汗がにじんでいる。
 メイは一歩近づき、サイドテーブルの上に置かれた薬と水に視線を向けた。彼女が手配した全てのものが、彼によって使われていた。
 メイは初めてバインダーをサイドテーブルの端に置くと、深く、そして静かに息を吐いた。それは、テスラの前では決して見せなかった、彼女自身の疲労と、ようやく職務が一段落したことへの、安堵の溜息。
 テスラの傍に立ち、しばらくその寝顔を見つめる。いつもの、傲慢なほどに自信に満ちた表情は消え、ただ一人の、疲弊した人間の姿がそこにあった。
 メイは音を立てないように慎重に動きながら、備え付けの棚の中から予備の毛布を取り出した。冷房の風が身体を冷やしすぎないように、そっとテスラの身体にかけ直す。
 そして、彼女は最後に一つだけ、小さな紙片をデスクの隅に置いた。そこには、几帳面な文字でこう書かれている。

《最低でも、十五時間は休むこと。――局長代理・メイ》

 自身が書いたその文字を満足気に指でなぞり、彼女は再び、音もなく部屋を出た。超管局のトップの健康を守るという、彼女の最重要任務は、ここにようやく完了したのだった。



一番星は静かに眠る