一番星は
静かに眠る

01

 その兆候は、前日の深夜、局長室の静けさの中にひっそりと現れた。
 テスラはいつものように、深夜二時を回ったにもかかわらず、全く疲れを見せずに大量の報告書を処理していた。彼にとって残業は日常であり、彼の秘書であるメイもまた、そのペースに合わせて執務室の隅で待機しつつ、手元の端末にとめどなく届く情報を整理するのが常だった。
 テスラが、冷えたコーヒーを一口飲み、小さく咳き込んだとき、メイは顔を上げずにバインダーのメモに目を落としていた。しかし、彼女の視線は、テスラのデスクの隅に置かれたカフェイン錠剤の瓶に向けられていた。――テスラは最近、作業効率を維持するために、これを常用している。
(昨晩、三錠。今晩、既に四錠)
 彼女の脳内のデータが、静かに警告を発する。……カフェインへの耐性が、上がりすぎている。
 それはテスラの肉体が、すでに常軌を逸した疲労状態にあることを示していた。
 メイはバインダーを閉じ、音もなく立ち上がって、テスラのデスクへと近づいた。

「テスラ。明日の朝までに急ぐ書類は残っていません。本日はそろそろお休みになられては」

 メイの言葉を受けて、彼は机上の書類から顔を上げる。

「……ああ、もうこんな時間か」

 そうして壁にかけられた時計を目にした彼は、小さく息を吐いた。酷使され続けた目が痛むのか、眉間を寄せながら目頭を揉んでいる。

「しかし、この案件は私が目を通しておくべきだろう。イワンの動きが、どうも……」

 テスラはそう言いながら、次の書類に手を伸ばした。その瞬間、彼の指先が書類の端を掴む際に、かすかに震えた。ほんの一瞬の、誰にも気づかれないような震えだった。
 だが、テスラの全てを監視しているメイは、それを見逃さなかった。
 彼女にとって、それは病気の兆候というだけではない。超管局のトップが弱体化し始めたという、最も重大な緊急事態のサインだった。
 メイは無言でテスラのデスクから報告書の一部を引き抜き、代わりに白湯の入ったマグカップを置いた。

「この件は私で処理できます。さあ、一度落ち着いてください、テスラ」

 テスラは驚いたように顔を上げたが、メイの鉄壁の意志を前に、それ以上の反論はしなかった。
 そして、その日の朝。
 彼は、メイが予測していた通り――風邪を引いた。