灼熱から
眺める末路

 一方的に切られた通話画面を前に、影山はしばし立ち竦んだ。
 気付いていた。ガルシルドが『我々』という単語を強調したことに。
 お前はこちら側だと、光ある世界には戻れないのだと、知らしめるためのその言葉は、影山に対してきわめて効果的だった。
 しかし影山の足をその場に縫いとめているのは、別の理由だった。

 ――鬼道有人を、排除する。

 手段は任せると言っていた。ガルシルドは逐一指示を出すタイプではない。目的を言い、そこに辿り着くならそれでいい、如何なる手段をも肯定するという、放任に近い命令方法だった。影山が幼い頃から変わらないそれは、嫌でも彼の頭を悩ませる。――その『手段』の中に、『殺害』も含まれていることが分かっていたから。
 死人は大会に出られない。そんなことは当然だ。更に天才ゲームメーカーの死亡は、そのチームメイトのみならず、対戦相手にも少なからず影響を及ぼすだろう。ガルシルドが率いるブラジルチームの勝利のため、そして世界征服を成し遂げるためならば、あの男は平気でそれを行うのだ。これまでに、いくらでも見てきた。
 ガルシルドの世界には、彼自身と、それ以外しか居ないのだ。

「……鬼道有人の、排除」

 できるのかと、己に問いかけようとして影山は首を振った。できるできない、ではないのだ。やらねばならない。
 でなければ、己は殺される。
 そして鬼道も――その才能を欠片も理解できない輩に、きっと殺されてしまうのだ。あるいは、家族を人質にとられ実験体にされるか。どちらにせよ、鬼道の選手生命は絶たれるだろう。そう考えるだけで、影山の頭はふつふつと煮えたぎるのだ。

 サッカーへの、復讐のための駒。

 ただそれだけの存在にこうも執着する己の心のありどころが分からなかったが、ガルシルドにいいように操られる鬼道の姿を、影山は見たくなかった。――何故だろうか。
 これまで、自身を裏切ってきた者は、誰であろうと排除してきた。 鬼道有人に対してのみ、それを拒む何かが己の中にあると知りながらも、影山はそれから目を逸らしてきた。逸らし続けてきた。そして、それはきっと、これからも。
 乾いた喉がひりひりとする。海の底から救出され、ほとんど水分をとっていなかったことを思い出した。
 携帯を内ポケットに入れて冷蔵庫へと向かい、冷えた水を取り出した。含んだ水はひりつく喉を癒してはくれたが、その乾きまではとめてくれなかった。――もう、ずっと前から、そうだった。
 彼の内に宿る復讐の炎は、今なお彼を焼き尽くさんと燃え盛っている。勝利という水を浴びるように飲んでも、その乾きは治まらなかった。
 視界の端に赤色がちらつく。幻覚だと分かりながらもそちらに目をやれば、案の定、そこにはなにもなかった。――嗚呼。

 ――喉が、乾く。

 緑に翻るあの赤色を、もう一度見たかった。
 そうすれば、勝利を得てもなお癒えないこの乾きがなんなのか、分かる気がしたから。


灼熱から眺める末路