刹那よりも
モラトリアム

 あの部屋長と恋仲になった。――といったところで、日常生活はさほど変わらない。指導が緩められることなど当然ながらありえないし、隙間時間に少しだけ優しくされる、なんてこともない。鬼は鬼のままだった。正しい在り方だ。

 紆余曲折を経てこの関係に落ち着いたオレ達だが、当然、色恋沙汰にうつつを抜かすためにこの場所に来たわけではない。そもそも部屋長はどちらかというと内恋否定派で、だからこそ、より厳しく己を律しているらしかった。
 その言葉を聞いたとき、少しだけ嬉しかったのを覚えている。忙しい彼の時間を奪っていることへの罪悪感は、ひっくり返せば恋人としての充足感と同義だ。彼にそこまで意識されるなら、恋人冥利に尽きるというものである。とはいえ、彼はもうすぐ卒業だ。邪魔をするようなことがあってはならない。
 お互いに校友会もあれば他にやることもあるので、共に出かけられる日は多くない。それでも月に一回、先輩としてではなく恋人として連れ出してくれるのは彼の誠実さ故だろう。

 外に出たとしても、オレが制服を着ていることもあり迂闊なことはできない。手を繋ぐことだってあらぬ噂を呼ぶことになるだろう。できることは、他の先輩後輩がやるように、食事に行って奢ってもらうことだけ。たくさん食べさせてもらって、ぽつぽつと色んな話をして、ふと目が合って、小さく微笑み合う。

 それが、オレ達の恋だった。


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