くゆる煙の
行く先は

 子供というものは、大人の真似事をしたがるものだ。酒や煙草、服装や足を組む仕草など、子供にとって格好いいと思ったことをやりたがる。
 そしてそれは子供に限った話ではないのだなあと、マツブサは隣でけほけほと咳き込んでいるアオギリに目を遣った。彼の手に握られているのは、まだ火をつけたばかりの煙草だ。よほどおかしな吸い方をしたのか、アオギリはわずかに涙目になりながら漂う煙を手で払っている。

「だぁから言ったろ、お前さんには強すぎるって」
「貴方が吸えるなら私も吸えます」
「なんだ、その理論……」

 なおも煙草を吸おうとするアオギリの手を抑えて、マツブサは火傷をしないように、ひょいと彼の手から煙草を抜きとった。すかさずアオギリがそれを取り返そうとするが、奪われるマツブサではない。

「返してください」
「せっかくのうまい煙草が無駄になんだろ」
「そんなことありません」
「あー、はいはい」

 言ってろ言ってろと、マツブサはアオギリが奪いとった煙草をそのまま口にくわえた。ちょうどいい塩梅に煙を吸い込めば、ほのかな甘みが鼻腔をくすぐる。そしてなによりタールの重さが堪らないのだ、アオギリには重すぎたようだったが。

「ほら」

 マツブサはポケットから煙草の箱を取りだし、その中の一本をアオギリに差し出した。普段アオギリが吸っているような軽めの煙草だ。マツブサの言わんとすることに思い至り、アオギリは眉根を寄せる。

「いりません」
「拗ねるなよ、お前にとって煙草は仕事道具でしかないんだろ? 喫煙室に入れりゃいいじゃねえの」
「……それはそうですけど」

 アオギリは不服そうに鼻を鳴らしたが、しばらくしてマツブサの差し出す煙草に手を伸ばした。煙草を受け取って口にくわえ懐をごそごそと漁っていたが、目当てのものがなかったようだ。ちらりと向けられた視線に、マツブサは『はいはい』と自身のポケットに手を突っ込む。

「マッチですか」
「ライター切らしててよ」

 マッチを擦り、火のついたそれをアオギリの口元に持っていく。そしてアオギリの煙草に火が移ったことを確認して、マツブサはマッチの火を消した。今度は噎せることなく煙をくゆらせているアオギリの姿を横目に、マツブサも同じように煙を吐き出す。空へと上っていくそれを目で追いながら、考えるのはアオギリとの、この不可思議な関係についてだ。

 不思議な縁だとマツブサは思う。当然だが、アオギリは敵なのだ。
 明確に敵であることはお互いに分かっているのに、こうして隣同士で煙草をふかしたり、酒の席を共にしたりする。そのくせバトルになればお互いの命を奪い合う。
 この関係を、果たしてなんと呼ぶのかマツブサには分からない。分からないが、この関係は不快ではなかった。分からないながらも、今日も明日も明後日も、追い求める二匹のポケモンが見つかるまで、そしてその決着が着くまで、この日々が続いていくということだけは分かっていた。
 だからまあ、この関係は不可思議ではあるけれども、楽しんでいればいいのだろう。来たるべき時まで、このままで。


くゆる煙の行く先は