語ることもない、
いつもの日々を
「よお、邪魔してるぜ」
「…………」
今日も今日とてどこからか忍び込んできたマツブサに、もはやため息をつくことすら飽いてしまったアオギリは何も言わずにコートを脱いでキッチンへと向かう。時刻は21時を過ぎたあたり、少し遅いが夕食の準備にとりかかることにした。
「今日の晩飯は?」
「貴方の分はありませんよ」
「そう言うなよー、なんか作ってくれって」
「勝手に飢えてなさい」
そう言いながらも、アオギリはきっちり二人分の材料を冷蔵庫に準備している。いつ来るかも分からないマツブサのためだけに、だ。冷蔵庫の中に入れておいたはずのビールやつまみがマツブサの前のテーブルに置かれているところから見るに、おそらくマツブサもそれを知っていて言っている。
それに若干の苛立ちは覚えたものの、深呼吸をひとつして調理に取り掛かる。何故この男の分まで作らねばならないのだと思いはするが、作らない方が面倒事になるとアオギリは実体験として知っていた。
マツブサがこの家に上がりこみ出した頃、飯を作れという彼の要望をひたすらに無視した結果、マツブサはバクーダでダイニングを燃やし始めたのだ。当然、火災報知器は鳴るわスプリンクラーは作動するわで大騒動となった。アオギリが消火している間にちゃっかりマツブサは立ち去っており、次回の邂逅が殺し合いになったことは言うまでもない。
「食事くらい買えるでしょう、お酒が買えるんですから」
「おめえの飯が美味いのが悪い」
「責任転嫁はやめてください」
料理とはいっても時間が時間のため、その内容はきわめて簡素なものだ。作り置きも利用して作り終えた二人分の食事をトレーに乗せ、アオギリはダイニングへと向かう。
「おー、待ってました!」
「…………」
もはや何も言うまいと、アオギリは皿をテーブルに並べていく。カトラリーだけはマツブサの手によってきちんと準備されており、マツブサは置かれた料理にすぐに口をつけた。
「美味えなぁ」
「食べたらさっさと帰ってください」
「そんなこと言うなよ、もうちょっと話そうぜ」
「嫌です」
取り付く島もないアオギリの言葉に、マツブサはぶーぶーと文句を垂れるがそれを聞くアオギリではない。マツブサと向かい合うように座り、形ばかりの食事の礼をしてアオギリも食事に手をつけた。
「今日はいつ頃に帰るんです」
黙々と夕食を食べ進めるなかで、アオギリはマツブサに問いかける。ついでにおかずを横取りしようとしたマツブサの手を叩くことも忘れない。
「痛てっ」
「人の食事をとらないでください。……それで、いつ帰るんです」
「ん? 泊まるぞ」
何を言ってるんだお前は、とでも言いたげな顔をしてマツブサが時計を指さした。『夜も遅いのだから泊まるに決まっているだろう』というのがマツブサの言い分らしい。勝手に家に転がり込んでおいてこの言い草である。実際に彼がそう言ったわけではないが、そう言われたも同然であった。
しかしここで揉めることの不毛さを、既にアオギリは知っていた。知りたくなどなかったが、ここ数年のマツブサとの付き合いで嫌というほど思い知らされていた。
「……雑魚寝なら許します」
「おう、それでいいぜ。今日はなんかソファーもベッドも使う気分じゃねえし」
「…………」
「ごちそうさん! 風呂もらうぜー」
言うや否やマツブサは立ち上がり、ばたばたとリビングを飛び出していく。その背中に、無駄だと分かりつつもアオギリは声を張り上げた。
「皿を! 洗え!」
「やだね!」
語ることもない、いつもの日々を