我らの正義に乾杯
――長官に、“悪い虫”がついている。
よくあることだった。彼の人間性はさておき、彼の保有する地位と権力はとかく魅力的なものらしく、それに吸い寄せられる人間は少なからずいる。時には力で無理矢理彼を従わせようとする輩もいる。この“力”というものも、まァ、様々あって。権力だけではないのだ。話の冒頭で奴らを“悪い虫”と称したところから察してほしい。
率直に言って、ルッチは不快でたまらなかった。いっそのこと表立って襲いかかってくれれば正当防衛として“処理”できるのに、まさかそのような人間が世界政府に席を置き続けているわけもなく。だからといって秘密裏に奴らを殺す、などということが許されるはずもない。CP9の特権は、あくまでも“世界政府の命令があるから”許容されているものだ。自身が気に入らないからといって、大義名分もないまま殺してしまえばそれは海賊と変わらない。幼い頃から鍛え上げてきたこの力は、自身の欲のためではなく世界のために使うべきなのだ。
自身の業は理解している。だからこそ折り合いをつけなければならない。他の人間よりも、はるかに厳格に自分を律さなければならないのだ。
しかし、不快なものは不快なのだ。人間、そうしたものを排除したいと思うのは当然のことで。
だから考えた。そして気付いた。――要はあの虫どもが、政府の討つべき“悪”であればよいのだ、と。
闇に乗じて任務をこなす諜報員、仄暗い秘密のひとつやふたつやみっつ、見つけてくることなど造作もない。
あくまでも認められた職権の範囲内で。
時折与えられる、“政府の内部調査”のときに。
政府の不穏分子に対する調査のなかで、あたかも“偶然”、繋がりを見つけたかのように装い、虫どもの秘密を炙り出す。あとは命令が下ることを待つだけだ。
殺すことができることは多くない。しかし殺すことができずとも、奴らが失脚すれば、もはや長官には触れられない。CP9の司令長官とは、それだけの地位にある。もし無理にでも近付いてくるようであれば、そのときこそ指令が下るだろう。
そしてまた一人、政府の人間が長官の前から消えるのだ。
「おい、ルッチ! お前、あれ覚えてるか? この前ここに来た、あの色ボケジジイ!」
「……その方がなにか?」
「なにかやらかしたらしい! 邪魔だったんだアイツ、気色の悪い目でおれのこと見やがって。ざまァねェな!」
アイツも馬鹿な奴だと、楽しげに呟く我らが長官は、既にあの虫のことではなく別のことを考えているようだ。鍵のかかった引き出しから分厚い紙の束を取りだした長官は、鼻歌交じりに紙をめくっていく。――ひとつ空いた席、それを巡って巻き起こる権力闘争。彼の生きる戦場はそこにある。
「あァ、そうだ」
にわかに鼻歌をやめ、長官がこちらを向く。
「アイツがここに来ようとしたら断れよ。使えねェ奴にゃ用はねェからな」
「承知いたしました」
――これは、各々の意味は異なれど、お互いにとって“邪魔”だった存在が、たまたま世界政府の敵だっただけの話だ。それが政府の指令により排除された――
ただ、それだけの話である。
我らの正義に乾杯