巻き込むな、
 巻き込むな。

 ――まさか男に色気を感じる日が来るとは。人生とは分からないものだと思う。しかも相手がロブ・ルッチだと? おれ頭やべェのかな。
 たとえば、暑さに耐えかねて髪を束ねている姿とか。
 たとえば、汗で張りつく薄手のシャツから見える鍛え上げられた大胸筋とか。
 いや決して好きとかではない。断じて好きとかではないが、でもこう、あるだろ? 同性でも『はー? なんだお前その色気舐めてんのか』みたいなこと感じることあるだろ? あるって言ってくれ頼むおれはおかしくないはずなんだ。

「なッ、おれおかしくないよな? おかしくないって言ってくれカク!」
「なんでお前たちはわしに話を持ってくるんじゃ!」
「お前がこの中で一番アイツとの付き合いが長ェからに決まってんだろ!」
「知らん知らん、わしは知らん! 少なくともわしはアイツに色気を感じたことはないわい!」
「えッ、マジで? 節穴では?」
「殺されたいんか」

 カクが本気でキレそうになっているので、おれは慌てて平謝りをする。やっぱりアレか、ガキの頃から一緒だとそういう風には見えないのかもしれねェな。
 と、そこまで考えておれはうん? と首を傾げた。――“お前たち”?

「“お前たち”って誰のことだ? 他にこんなこと相談する男がいんのか?」

 もしそうなら、やっぱりおれはおかしくないってことなるよな。ルッチに色気を感じてる男が他にいるならおれはおかしくないよな!
 おれの問いに、カクは一瞬言葉を詰まらせた。そしてとんでもなく深いため息をひとつ吐いて、首を横に振った。

「あァ、あァ、おるわい。他ならぬロブ・ルッチじゃ!」
「……あ?」

 カクの言葉に再びおれは首を傾げる。……ルッチがルッチに色気を感じてる? 文脈がおかしくないか。何と勘違いしてるんだ。おれはルッチに色気を感じている他の男の存在を知りたいのであってだな――

「もういい、わしが間に立つ必要なんぞないわ! あとはお前たちで勝手にやっとれ、わしは知らんぞ!」
「ちょ、おい、カク?」
「昨日のことじゃ、ルッチがこう言ってきた。――『最近、あの馬鹿の首筋を見ると噛みつきたくなるんだが、何故だろうか』とな! そんなもん知らんわい、勝手に噛んどれ!」
「えッ、それがおれの相談となんの関係が――」
「大アリじゃ、このアホどもがーーーー!! とっとと引っ付くなりくっつくなりしてくれ!」

 もう知らんもん、わし知らんもん!
 そんな子供のようなことを言って、カクが部屋を飛び出してしまった。大きな爆弾をひとつ、廊下で破裂させて。

「お膳立てはしてやったんじゃ、あとは二人で話し合えルッチ!!」
「……んぇ?」

 カクと入れ違うように部屋の中へと入ってきたのは、話題の中心、ロブ・ルッチだった。……あれ、もしかしてこれ全部話聞かれてたパターンでは?

「あッ、えーッと、ダンナ、えー、あの、これはその、違くてですねー、えーッと――」
「おい」
「はァい!」
「来い」
「えッ」

 ルッチがおれの腕をがっしりと掴んで、廊下へと引きずっていく。廊下も通りすぎてたどり着いた先は、ルッチのプライベートルームだった。――あの、なんかやばくないですかね。すごい不穏な空気なんですけど、殺意じゃない何かがコイツの周りに渦巻いてるんですけど、あの!

「あのォ……ダンナァ、おれちょっと用事が――」
「現時刻をもってその用事とやらは無くなったぞ、よかったな」
「えッ」

 おれ今日驚いてばっかりな気がする。そんなおれを他所に、ルッチはがちゃりと自室の扉を開けて、おれを部屋に引き込んで、鍵をかけて――

 このあと何があったかって? まァ、その……ルッチの色気をいっぱい堪能したっていう、そんな感じで……

***

「なァ、カク」
「……なんじゃ」
「最近、アイツすげェおれの首とか腰とか見てくんだけど、やめさせてくれねェかな……おれが言っても逆効果で――」
「あああああああなんでわしばっかりこんな目に遭うんじゃーー!! ジャブラーーーー!! ブルーノーーーー!!」


巻き込むな、巻き込むな。